浴槽
遠藤杏

斜め上から見ている
少女の視線を背中から感じている
浴槽の中で
生温いお湯をかき回しながら
親指の形を何度も憎んでしまう

わたしの輪郭が歪んで
写る
混ざっていく
確証のないものなどたくさんあって
わたしがわたしを見捨てなければ
誰も文句を言う権利などありはしないのだ

少女と目を合わせる
頭が急にきりきりと音をたてて痛み出した
いつだって逃げ出してきた
わたしというものの本質に触れようとしない
わたしへの罰だ

少女は赤子のように
口を大きく開けて泣いた
ボロボロと涙がこぼれ落ちて止まることがなかった

浴槽にぽたりと落ちていく一粒の涙が
綺麗な模様になってひろがった

向かい合って座り
ゆっくりと抱きしめた



自由詩 浴槽 Copyright 遠藤杏 2010-11-09 02:39:10
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