浴槽
遠藤杏
斜め上から見ている
少女の視線を背中から感じている
浴槽の中で
生温いお湯をかき回しながら
親指の形を何度も憎んでしまう
わたしの輪郭が歪んで
写る
混ざっていく
確証のないものなどたくさんあって
わたしがわたしを見捨てなければ
誰も文句を言う権利などありはしないのだ
少女と目を合わせる
頭が急にきりきりと音をたてて痛み出した
いつだって逃げ出してきた
わたしというものの本質に触れようとしない
わたしへの罰だ
少女は赤子のように
口を大きく開けて泣いた
ボロボロと涙がこぼれ落ちて止まることがなかった
浴槽にぽたりと落ちていく一粒の涙が
綺麗な模様になってひろがった
向かい合って座り
ゆっくりと抱きしめた