立冬月の秋のこと
小池房枝

雀たちふわふわススキを持ち帰り夜寒の寝床に足し綿しなさい

凪という名前の少女を知ってます炎の魔女と呼ばれていました
  
ナンテンとツルウメモドキとピラカンサ小鳥たちおいで朱いご馳走

目に見えぬ子らが遊ぶか忙しなく黄色や茶色の葉っぱ散るらむ
 
夜ごとにひとの心に触れながら薄れてゆくも蘇るも月

昔日に「カモカモ come on !」とカモたちに叫んだ友を思い出す秋
 
この時期は軌道の真上に落ちる陽が直に十二の車両をつらぬく
 
「けだもの」と「けもの」は違う「けだもの」は「けだものだもの」百パーセント

外海と同じ色したルリハコベ瑠璃をそのまま手に取れた不思議

星たちが年に一周する間にも月はビュンビュン満ちたり欠けたり


三日月に凛々しく見える横顔に見惚れて階段一つ踏み外す

耳をすませ降りだしたかなと呟くと急にうるさく騒ぎ出す屋根

家の灯を映す川にはカモたちの影が静かに行き来してます

朝顔の終わった夏のプランターの土をあけたらヤモリが一匹
 
分かつ風か禍津風まがつかぜせめて人々に異言の祈りや呟きを運べ

朝ごとに部屋に低く深くなる朝日やがて朱色に光る下駄箱
 
落ちる前も落ちて来るまもその後もカサコソ遊びのユリノキの並木

焼きたてのスコーンを出せば客人は「あんたほんとに小麦粉好きねぇ」

美しき明星二つなおのこと美しきかな並びかかりて

「花はダメ!とっていいのは写真だけ」そっとタネならもらってもいい?


実ったり散ったり忙しないことに飽きたらぽかんと明るい秋です

蒼穹にそびえるテイオウダリア、ダリア。
増えたねここの気候が好きかい?
 
落ち葉厚く覆われ春まで守られてあの斜面きっとカタクリが咲くな
 
いなぃいなぃばぁ星たち雲にかくれんぼ月に名前を当てて欲しくて

奥行きも高さももやに閉ざされて狭い狭い空 鳥はどこを飛ぶ
 
風だけが聞こえるわけを本当に知りたいのなら教えてあげるよ?

雪も雨も重力加速度そのままに落ちて来てたら危険なこの星

入日野にさびしさゆえに草結ぶ誰も転ぶまい遊べ秋風

リロイきみはあれからどうした?死体をも瓶詰めにして判事になった?

妖怪に「何用かい?」と言われたい「こんにちは」とだけ答えたいから

 
神々は留守ですものども手のひらの分だけ世界を受け持ちたまえよ

ゴンベさんが種まきゃカラスがほじくると。これが逆なら絶妙なのだが。
 
花もちを良くする薬に活けられた薔薇枯れきれず色褪せ果ててる

海は春が早いよ風がかきまぜてお日様スイッチ入れたらすぐだよ

びゅうびゅうと風ばかり吹く雲ばかり運ばれてゆく先ヘ先へと

細やかな影絵だれかが手仕事で貼り付けたような夕暮れのポプラ

カサブランカいつ終わりますか零余子むかごひとつ緑の身体にいつまで抱いてる

たんぽぽがぱったり倒れて咲いていた今日寒かったねでも咲いたんだね

時は未来。昔し昔しあるる処に、おじじいさんとおばばあさんが

何かあった?白い花びらが散っている。ああサザンカが咲いてるんだね


秋の日は釣瓶落としと言うけれどだからって叩き落とさなくても

昼はまだ緑色なのに夕日には黄色に耀く銀杏並木だ

つんつんと生えてきた葉はヒガンバナ 林は開けて明るくなったよ

そこのミケ、声かけたのは私だよ。ふりむいたくせに気がつきゃしない

あたたかなコタツの中でボコマルをしようよ水虫なんて気にせず

ぐいぐいと頭突きで迫り来るネコよ言いたいことがあるなら言いなよ

ちびゴキよトイレに一匹だけならばいいけどちょっと大きくなったか

図書館の建て替えだとかでカメたちが池からいなくなっててかなしい

数学のお花畑を無限記号ちょうちょがひらひらしていてきれいだ
 
日本のおでんを食べに北欧のオーディンもおいで一族とともに


短歌 立冬月の秋のこと Copyright 小池房枝 2010-11-09 00:33:38
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