記憶の壷
ホロウ・シカエルボク
許されない歌と
悲しまない声の祭り
阻まれない夢と
ひび割れた道の終わり
長い歩みが終わりを告げる
その時の寂しさのような気持ちで
あなたはほんの少しの
木の実を口に含むのです
生まれてからこれまで
呼吸のように繰り返してきた思い
わき水にふれ
冷たさに震える感じみたいな気づき
愛玩用の鼠が小さな車の中で走りつづけて
そのあとはっとなにかに気を取られたときの目つき
カレンダーの空欄では
すべてのルートを記すことは出来ない
確かな朝靄みたいに
昨日は断片をさらして
ピノキオが迎える明日と
同列だけど有限な朝の数
それ以上語らないで
それ以上綴らないで
恐怖にも似た断片を
陽だまりのぬくもりなんかに似せたような調子で
わたしの心は
わたしの肉の中などにはなく
反動に任せて水を飲む木彫りの鳥みたいに
身体は運動を繰り返して
果てる
心をそこに残していてはいけない
翡翠の中の蜂みたいに凝固してしまうから
夢に出てきた懐かしい人たち
昔過ぎて愛してると言えない
このあたりの風は海から吹いてくるので
わたしの感情は古いものから順番に錆びていってしまう
冬になるのに
暖かそうな真似なんか出来ないし
秋を引き留めようとするみたいに
赤蜻蛉の羽を追いかけていた幼い日
ゆうやけこやけがわたしに教えてくれたこと
歳を取るごとに少しずつ
寒さは形を変えるのだと
わたしは蜻蛉を捕まえるのが下手だった
何度も網を破いては
うつむいて帰った土塊の道
夜が遅いからもう寝なくてはいけません
時が過ぎるから馴れなくてはなりません
寝たり起きたり繰り返して
いつかわたしも失われる記憶の一部になる
新しい枕とシーツを
まだ終わらないものがあることを
その清らかさでわたしに囁いてください
優しさなどは散りばめないでください
そこに夢を見られるほどに
なにも知らないわけではないのです