がらんどう
乾 加津也

なまぬるい風に
ウエルニッケ野原はがらんどう
すずめを いちわ
ちからまかせに
にぎり もだえる
臨月まぢかの手(うで)をひろった

縄をまわし
大地に丸太をいくつもしいて
石油コンビナートのように
十人がかりで引いていく
身の毛もよだつ
手の奥からの鳴き声の
膿の施設で底をうつ がらんどう
リズム 胎動 それ
動くのだ
太鼓

空耳か
囃子だけ やみくもに
くりかえし
とまるな歩け
(歩けず)ひとりが手にのみこまれたぞ
ちくしょう
どうだ
丘をこえたか川をわたったか
ストルゲー 失語症
忘れるほどまで歩いたか

 ようやくだ 見ろ
 あれはすずめも焼きつくす
 薪(まき)の巨漢は
 芯まで赤々と群れ 狂い
 いまか いまかと
 焔(いかり)たぎった溶炉(まぐま)のえい煙 がらんどう
 いともかるく
 噴きながして



われら九人このうえは のこる命を費えても
この手を立たせ
たがいにほてる顔をたしかめ
契りをかわす労働組合
子々孫々から突上げる
史歴の業(ごう)を終わらせるのだ


自由詩 がらんどう Copyright 乾 加津也 2010-11-08 00:02:54
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