背中で語る
yumekyo

無職無芸の自分に向けられた罵詈雑言に
ヘラヘラヘラと冷笑を以て返すのが
心底辛くなったから
田舎を出てきた
そしてわたしを差す黒い指を
そのつどへし折って へし折ってきながら
ペコペコと下げる頭の裏で
悔しさに歯を食いしばり 食いしばりながら
ここまで来たんだ
わたしの名前の横に肩書きが添えられ
部下もついた

わたしがある若い職員に注意を与えたとき
彼は至極あっさりと「はい」と答えた
魂の抜けた様な言い方がどうしても気に入らなかった
わたしは思わず 
彼をなじってしまった
男には
背中で語ることがあるとは
くさいせりふのようだけども
わたしは真実だと信じているから

泣きたければ泣け
地べたを這いずり回って叫べ
馬鹿にされて言い返せないなら
むしろ黙っていればいい
凛と ひとりたつ背中が
悔しさにふるえていればいい
憎しみに満ちてすら 構いはしない

なじった先の彼には
悔しさも憎しみすら感じ取れなかった
木っ端のひとつになりきって
毎日の就業時間をやり過ごして暮らす
冷笑による至極あっさりとした「はい」は
関与を拒絶するためのバリケードとして存在する
物心ついたときから栄光や賞賛を受けずに
不景気と没落のニュースばかりを聞いて過ごしてきた
昨今の若者達は今の立場を失うことだけを恐れて
上の空を演じているのだろう
胸をかきむしりたくなる
思わず拳を握りたくなる

そしてそういうことだったんだと気付く
かつてわたしに向けられた周囲の罵詈雑言は
はちきれんばかりの悔しさだったんだ

わたしには力が足りない
心の深さも足りない
至らなくて心底から震える毎日
だから 日々を漫然とやり過ごすことや
冷ややかな目線でやり過ごすことや
自分を許せなくなることはしたくない
むしろ雨の中で悔しさに震えていたい
そして次の日には笑顔を見せて
周りの人をひとりでも導きたい
使われるばかりではないから


自由詩 背中で語る Copyright yumekyo 2010-11-06 23:49:25
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