不幸な女
アラガイs


水は瓶を零れ白い指先をつたう
冷たい大理石/泉の奥底に
褸褸と血はうすくながれ落ちた

女は腰に蛇を巻きつけ、小脇に山羊を抱えこむ
秘部を隠す羊歯の葉はかたく
その陰部を突き刺した
呪われた血の稜線
吐いては
また子宮へと押し戻す
春遠き蠢動
二つに結い契る蜜月の誓い

不幸な女は絡まる淫の蔓に泣く
吠える戦車の筒先に煙る
屈んではその陰に身を潜め
降り注ぐ鉄の霰のなかを潜り抜ける
藁を敷き詰め
布目を編むように
あてもない寝床をさすらう折り紙の人
ただひたすら
鞄に詰めた夜露を噛みちぎる

髪は女を食い尽くし
振り向けば囁くように語りかける一つ目の怪物
耳を奪われ
その目を潰し
ひと肌さまよう痣黒い羽根
唇をなめ、澄んだ水面を真探る細長い指先の円
上澄みを掬い上げれば、淀む精液に身をながす
羊水に膨れた小腹が花藻の小川に浮かんでいる
ただよう扇髪の
あかいいと

二つに割れた鏡の向こう
唇は因果に歪み
溜まり続ける角質の醜さ
舞い上がり
舞い落ちる、その一文字の矛先に、不幸な女の涙の足跡が、辿り着けない母屋への稜線を刻む

花は どこ

夢をみたの

ひとりでは生きてゆけない と

掬う泉の血のうすさよ

湯の華に沈む

髪の重さよ







自由詩 不幸な女 Copyright アラガイs 2010-11-06 04:56:40
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