ゆうれひ
乾 加津也

   うれひを小脇にかかへ
  不眠の患者の眼のうへ ありく
 うすひ壁なぞすすす あへなし

やる気もうせたこのカラだ
サイレントピアノを百年たたく 人真似よろしく
肺病む少女をゆうれひはおもふ
幻なぞでも愛せるものかな
ほら胸 高鳴り
ぎゅっと小脇をしめつける

こもった部屋もこざっぱり
てまねくゆうれひ おひで おひで
暗澹ウエハース いなや
むせび貝よたよた宵の口ぽっちりがよろし
武士は食わねどわびしき日には
囲炉裏の内輪 まじりて座る
わかってほしひ この潜在(おもひ)
フェイストゥフェイスでビビっときたとて
気づかれぬこと これほんぶん

ゆうれひのさむらひ が
ゆうれひのさかだち で
ゆうれひのゆびさき は
ゆうれひのさみだれ の

アップサイドダウンパーンチ
いかでか ここでも捨てられぬ
うれひは小脇に すっすっ すすす
いつまでも抱きかかへてはいなひ す
明日こそ捨てむとおもふ す
(あな こころもとなきかな)

   うれひは小脇
  眠れぬまつげもあぢきなし
 うすひ壁あへなく ゆけすすす


自由詩 ゆうれひ Copyright 乾 加津也 2010-11-05 00:12:03
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