21世紀戦争 ‥CHILD編
アラガイs


鋭角に奔る超高層の上空/オレンジに浮かぶ雲をジェット気流が切り裂いた。
このところ帰宅してもパノラマで立体画面を見るのが怖くなる
昨日も、定期健診と偽って診察に行ったB級高齢者が、百人近く飯盛山の隔離施設に閉じ込められた 。

隔離に抵抗した数人の男性高齢者は、ぼこぼこに殴られて重症だという 。
すべてに於いて痛みなどという観念を知らない彼らは容赦ない 。
執拗な抵抗には遠隔操作で AKB41を撃ちまくる 。

考えてはいけないのだが、いま目の前を歩いているあどけない可愛らしい少女が、後数年もしたら血も涙もない 高齢者通報特務の任命を受けるのかと思うと
わたしはいっそこの場で抹殺してしまいたい誘惑に駆られてしまう 。
人類はやはり人工受精のやり方を間違っているのだ‥と最近思うようになってきた。

なんだかこのところわたしも頭痛と歯痛に痛みの兆候が見られるのだが、やはり怖くて人間が管理する病院には行けない 。
今し方電車から降りるときすれ違った少年の不審な目付きが、気になってきた。
明日は またEHSに診察に行ってみよう 。
夕食は 今日も栄養ジャムを塗り付けたやわらかなパンで我慢するか‥
‥今月の規定歩数が評価メモリーを越えそうにない。
わたしは帰宅を急ぐ人混みを離れると、地下街に入り少し回り道をして歩いて帰ることにした 。

地下中央広場へと繋がる通路の淡白色ベクトルの光彩は、それが夕暮れ時だとは思いもつかないほど明るく輝いていた。
瞬きを繰り返しながら、直線に伸びた真っ白な通路をしばらく歩いていたら、同じく規定歩数に足りていないのか、軽快な服装に着替え酸素マスクを頭からすっぽり被った中年のサラリーマンたちが、重そうなリュックを肩に下げ「〜はぁ〜はぁ」と息をきらしては、 わたしを追い越して歩き去っていく 。
前だけを見つめ、ぎこちなく、前後に大きく手を振りながら、皆一応に長い影を引き連れて‥
そして吐き出された二酸化炭素の蒸気は、眩しい光りに吸収され、黄紫色に妖しく溶けあいながらわたしにある狡猾的な眩暈を覚えさせる 。
それは、まるで未知の領域に足を踏み込めと言わんばかりの危険な陶酔感で、光り輝く四角い闘技場のなかを、ただひたすら歩きまわる人たちを次々と殴打してゆく、蝿のような小さな執行官。
そして死の匂いのするこの地下街に、
子供達の姿は 皆無だった 。








自由詩 21世紀戦争 ‥CHILD編 Copyright アラガイs 2010-11-04 16:17:30
notebook Home