飛行訓練
木葉 揺

どうしても空を飛びたいらしいので
象が踏んでも割れない筆箱をあげると
「二郎さーん!」と言って地面に投げつけた

私は冷や汗をかきながら
「確かに弟ができたら二郎と名付けるつもりでした」
と答えると、赤鬼は大声で泣いた
どうやら青鬼の優しさがやっとわかったらしい

仕方がないから、筆箱をアフリカに返そうと
宛先を書いていると
泣きながら赤鬼が「おれ耳短いぜ」と言うので
ハッと我に返った

「サッカーするしかないのか・・・」

それなら、茨城弁をマスターしなければならない
とりあえず赤鬼と水戸へ向かって歩き
頭の後ろから何か飛び出す感覚を大事にした

そのうち頭の後ろから 鹿が次々と
「できるだけ高いトーンで
 できるだけ高いトーンで」
と歌いながら飛び越えて行ったので
感謝で気持ちを込めて奈良を思い出した

そういえば黒塚古墳の近くの池の周りを
「ここやったら落ちる?ここやったら落ちる?」
って走り回りながら、ばあやに話すうちに
本当に池に落ちた母はどうなったかなぁ?
きっとランニング中の兵隊さんたちが
名誉を競って飛び込んだに違いない

ピリリリリ!
携帯が鳴った
兵隊さんからウレシイ知らせだ

母は二郎を身ごもっているらしい
「水吐いても おなか引っ込めへんねん」
と肥満をごまかす時みたいに
母は笑っているようだ

「二郎が生まれるぞ」
横にいる赤鬼に伝えると
「青鬼なんて偽善者だ」
と言ってまた泣いてしまった

無理もない・・・
筆箱の中身を全部そろえられたんだから
飛べるわけがないのだ


自由詩 飛行訓練 Copyright 木葉 揺 2004-10-23 14:07:32
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