銀杏の葉
服部 剛
君の母の納骨式が行われた日の夜
朗読会の司会を終えた僕は
仲間達に手をふって
高田馬場駅に近いコンビニの公衆電話から
( 今、終わったよ・・・ )と、君に言った。
久しぶりに家族と親戚をもてなして
疲れた君のつれない声に
僕はがっくり肩を落としながら
山手線に、揺られていた。
日づけも変わり
人気少ない戸塚駅から電話すると
僕の勘違いで君は隣の
大船駅で待つ、車の中から
( えぇ!戸塚?今すぐいくから・・・ )と、僕に言った。
深夜3時の宿で
僕等はふたりでひとつになり
湯舟に沈んでいた
バスタオルで身を包み
ソファに肩を並べ
日中、納骨式で使った
母の写真を
君は僕に、初めて見せた。
実家の庭から、笑って振り返り
今にも歩き出しそうに
こちらをそうっと見守りながら
少し開いた唇は
( りえこ・・・そろそろいくわよ )と、僕等に言った。
3月17日・午前3時30分
1年前の君は、弟妹と共に
静かに息を引き取る、母の最期を見守った。
1年後の同じ時刻に
君は僕と同じ布団に入り
瞳を閉じて、夢を見る・・・
遥かな国へと去りゆく母が
僕の手に
1通の手紙を
バトンのように、手渡すのを
その空白の便箋には
2枚でひとつの葉になった
銀杏の絵が
薄っすら、浮かび上がっていた。