【連詩】 家族ピアノ
古月
それにはとても時間がかかる
黒鍵をはじからかぞえていた妹は
一番心細くなったところで消えた
そして、長い間うなだれていた父さんが口をあける
芥子の花、
白い、
縁側は燃えて、
みんなみんな大切な僕のファ、ミ、
床にひたり、と立っている
足や、豆腐を
のせた手や、母の姿はいつも断、片で
少し、届かない位置の音、
みたいで、
母さん、父さん、ぼくの
たいせつな家族、の
鍵盤を叩く ぐちゃり
音が消えるのを待っていた、
たとえるならそれは、まばたき
ちらりちらりと見えかくれして
遅れ、ひとつずつそれぞれ
落下する、赤子の手のうえ
握りつぶされた譜が
積もっていく
そ、 うだ、
の 不協和音 いと しく、て、
手形 だらけの 譜、
あ、 つ、 い、
(黒い口から洩れる)
「それは本当に猫でしたか?」
「えっ、一体どういう……」
「あなたが叩いたそれは本当に、」
「猫、」
「踏まれた」
「譜まれた」
「あなたは、
「猫、踏まれるのは猫でしょう」
「よく思い出してください。猫でしたか?」
(悲鳴)
「鎮静剤」
毛なみの白い美しい猫でまるで眠っている
ようでしたが頭部だけ黒く変色して父は
腐っているといいましたが父は
猫とわたしの手をひいて越えられなかった
裏庭の川をひとまたぎ
それきり
腐った足をはずして変色した家族のたいせつを叩くファ、シ、レ、ソ、ミ、ド、レ、カ、ラ、シ、ヌ、ノ、カ、シ、ラ、」、
川には たくさん
和音が ながれて
はずされた 器官に
ひっかかり 僅かに
ずれて い く 音 )、(
鍵盤を走っていく、
母さん、父さん、ぼくと妹、並んで鍵盤を叩いて、猫、
音楽は鳴りますか、芥子の花、が、溢れる、
ピアノの蓋が開いて
やまない談話と
拡散、しては返す
「ぼくたち
鳴り響いています」
なめらかな五本の指が
ひらいてとじて
ひらいてとじて
「家族は
終われませんでしたね」
不協和音、
。