でもそんなの朝の間だけのことさ
真島正人
朝早く
女が僕の布団に潜り込んできて
いろんなことを言ったけど
消えちゃった
僕は彼女がなにを言っているのか
全くわからなかったけど
大切なことは要約ができないと
言っていたような気がする
朝早くカーテンを開けると
田舎の町は都会になっていた
工事現場から逃げてきたクレーンがベンヤミンを読みながら
自分を増やしていた
自分を増やしていた
そんなことをしてどうするんだろうね
僕たち人間は
どこへでもゆくことができる
そして行った先を都会にする
僕の寝床の雨漏りはすぐに修復される
修復されてまた
雨漏りをはじめる
朝早く布団の中の僕は
なんだか訳の分からないことをつぶやいていたらしい
トーストをかじりながらお茶を飲み
自分のことをゆっくり考える
朝のあいだ僕はずっと自分のことを語り
自分のことを語るから自分がわからなくなる
日本人は優雅に暮らしてきたものさ
優雅に暮らしてきたから優雅がわからなくなってる
日本人は朴訥に話すのが好きさ
朴訥に話すから女がわからなくなる
僕は僕のことを語るのさ
それで僕のことがわからなくなる
でもそんなの朝の間だけのことさ
僕たち人間は
どこへでもゆくことができる
そして行った先を都会にする
僕の寝床の雨漏りはすぐに修復される
修復されてまた
雨漏りをはじめる