まどろみ
乾 加津也

たびたびおとずれる
手をのばさずにはいられない衝動と
どこかで燃えつきるはずの悠久の紳士が
消えずに残るわたしの瞼をゆきすぎていく
それはまるで
ひびきを吸いとる
木綿をまとった異国の旅人が
つまずいたなにかで生活(くらし)を軽くしたように
遠く
細く吹かれるわけに似ている

落ち葉 でなく
痛みでも なく
歴史的な火の方式が
幾とおりもの線にほどけ散るのを
うすい瞳の
底でこらえる防波堤
わたしに耐えられるはずのない
波の立場(しゅくめい)は
耳を
耳をと
どっともたれかかり
わたしの顳顬(こめかみ)に渦をあわせるふかしぎな問い

濡れても 乾き
めざめてもまどろみ

わたしの声は地平のはてから
すり傷だらけの肩をたらして くすみ
つめたい
感傷でぬりかためた唇にすわって(さらりさらりと)
くず折れる
「もう いいのよ」「きにしなくてよ」
どこかの
あなたの
ささやきが
雨にうたせた目を閉じて いつまでも
わたしを包みこんで
いてくれたなら



文明のあとの吐息のように
光のカーテンがひらかれる
永遠の樹林で


自由詩 まどろみ Copyright 乾 加津也 2010-10-30 00:45:23
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