まどろみ
乾 加津也
たびたびおとずれる
手をのばさずにはいられない衝動と
どこかで燃えつきるはずの悠久の紳士が
消えずに残るわたしの瞼をゆきすぎていく
それはまるで
ひびきを吸いとる
木綿をまとった異国の旅人が
つまずいたなにかで生活(くらし)を軽くしたように
遠く
細く吹かれるわけに似ている
落ち葉 でなく
痛みでも なく
歴史的な火の方式が
幾とおりもの線にほどけ散るのを
うすい瞳の
底でこらえる防波堤
わたしに耐えられるはずのない
波の立場(しゅくめい)は
耳を
耳をと
どっともたれかかり
わたしの顳顬(こめかみ)に渦をあわせるふかしぎな問い
濡れても 乾き
めざめてもまどろみ
朝
わたしの声は地平のはてから
すり傷だらけの肩をたらして くすみ
つめたい
感傷でぬりかためた唇にすわって(さらりさらりと)
くず折れる
「もう いいのよ」「きにしなくてよ」
どこかの
あなたの
ささやきが
雨にうたせた目を閉じて いつまでも
わたしを包みこんで
いてくれたなら
文明のあとの吐息のように
光のカーテンがひらかれる
永遠の樹林で