ショパンの手
石川敬大




 マヨルカ島にふきよせる地中海の青い風をすくいとる
 ピアニストの手のひらは白い
 葉叢を束ねる小鳥のさえずりに頬ずりをして
 月光にきらめく細い爪をみつめていた

 風の家にあって
 歓喜であるのかふあんであるのか
 その両方であるじぶんが
 この手が
 なぜ
 どこにいてもひとり
 さびしくふるえているのか
 涙をながしてかんがえていた


 共鳴板である
 からだの枝先が手で


 触覚にふれる発端であり結末である
 青いなめし皮から
 しろい風の家の
 島にあっても
 この手が
 なぜ
 たったひとつの岬であるのか
 ふるえ慄いてかんがえていた

 譜面にのこされた雨だれの
 ショパンの筆跡はかぎりなく繊細でやさしい
 ときに拒むことで
 耳に残るものがあると信じることで
 一瞬を永遠にかえ
 いきることのさびしさに
 そのふあんに
 きみは
 ふるえ慄いてかんがえていた






自由詩 ショパンの手 Copyright 石川敬大 2010-10-26 22:18:44
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