桃源郷
ヒヤシンス

昨夜の雨の恵みと眩い太陽の恩恵を受けて、
大地の緑が鮮やかに輝く。
涼しすぎる風がカーテン越しにこの応接間を吹き抜ける。
ベートーベンのピアノソナタが庭の緑を一層濃くする。

時代と人間に翻弄された僕が救われたのは、
夢色に彩られたこの庭の情景だ。
祖父も愛したこの庭に僕は心の平静を求める。
決して裏切られる事の無い桃源郷。

時代は移り変わり、永遠なものなどない。
祖父の想いと僕の想いは砕かれて、桃源郷は消え去った。
人目もはばからず泣いた夜、優しく照らす月の光。

月の光のカーテンは僕を優しく包み込む祖父の魂だ。
祖父の魂は僕の心に刻まれ、桃源郷は記憶に刻まれた。
優しさと思いやりを愛という鞄に詰め込んで旅に出ようか。


自由詩 桃源郷 Copyright ヒヤシンス 2010-10-23 19:02:30
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