記憶は生命ではないので
真島正人




記憶は生きていない
記憶は動かない

ので

それは生命を超越し
古い古い地層に
固定されている

こことは違う時間では
時間は
固定されている

こことは違う時間が
それ一つだけで
教室を作っている

誰もいない部屋
大きな置時計

汚れてしまった
青春の
錆び跡



記憶は
暗室に似ている

ので

暗室に入っていく人間がいる

人間は動いている
彼の細胞がどんどんと
交代していく

彼は彼自身であり
暗室は
暗室そのものである

暗室はいつも暗室のそのままで
何一つ交換はしない



投射されていく
焼き付けられていく

そうして

記憶が生成される

柔らかい生命体のように頼りない
グニャグニャとしたフィルムは
とたんに死んでしまう

かたくなって硬直する

だから記憶は
時間に抵抗する

時間は生体を殺すが
記憶は生体ではないので

時間に殺されない

人間の肉体が
逝ってしまう

しかし記憶だけは居心地が悪そうに
その場所にとどまり続ける



自由詩 記憶は生命ではないので Copyright 真島正人 2010-10-23 01:53:22
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