記憶は生きていない
記憶は動かない
ので
それは生命を超越し
古い古い地層に
固定されている
こことは違う時間では
時間は
固定されている
こことは違う時間が
それ一つだけで
教室を作っている
誰もいない部屋
大きな置時計
汚れてしまった
青春の
錆び跡
※
記憶は
暗室に似ている
ので
暗室に入っていく人間がいる
人間は動いている
彼の細胞がどんどんと
交代していく
彼は彼自身であり
暗室は
暗室そのものである
暗室はいつも暗室のそのままで
何一つ交換はしない
※
投射されていく
焼き付けられていく
そうして
記憶が生成される
柔らかい生命体のように頼りない
グニャグニャとしたフィルムは
とたんに死んでしまう
かたくなって硬直する
だから記憶は
時間に抵抗する
時間は生体を殺すが
記憶は生体ではないので
時間に殺されない
人間の肉体が
逝ってしまう
しかし記憶だけは居心地が悪そうに
その場所にとどまり続ける