夜の散歩
吉原 麻

まるまる と ふとった にのうでを さらして
あつこさん は山手線のホームへ降りた
恵比寿駅は人がたくさんで
彼女はすぐに そのたくさん に なった
さっき ばいばい といったかわいたやさしい声は
しらんぷりばっかりしている電車の中で 新鮮なほど明るく
みんな見て見ないふりをしていたと思う ずるい
わたしも恵比寿で降りて AFURIのラーメンでも食べに行けばよかった
と五反田を通過してから後悔した
ゆずしおの香りが鼻にちかづいた

恵比寿駅西口を タクシー乗り場の方向へ出て
駒沢通りを横断して ピーコックの前を通って
ごさろ に 出たら 左からふたつめの道 へ 進む
そうすると右側にあるバーは 昔よく行った
仕事から帰ってこない 当時の恋人 を 待つために
みのがした映画を 大きなスクリーン で みせてもらうために
かとうさん とよんでいたマスターに どうでもいい話を聞いてもらうために
前来たときに ふたつ奥の席に座ってた人が今日も来ていないか 確認するために
ほんとうによく 行った
あるとき かとうさん は ふたりに増えて
あつこさん も かとうさん になった
それで おわった たしか


結局 ひきかえしてみた 恵比寿 のまちで
なんねんか前に味わった空気を 体 に うけると
恵比寿 が 自分のもののような気がして
ずんずんと 代官山アドレス まで 歩いて行って
友達を起こして
お酒を飲みに行く また


自由詩 夜の散歩 Copyright 吉原 麻 2004-10-22 12:02:53
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