ある冬の日、寒空
林帯刀
1
引っ張られたから
振り返ってみたけど誰もいない
左手は引っ張られたまま
そこから伸びる
糸
からんでいる指の先
坂道
たぐってみた
釣り糸みたいだけど
おかしな色してて
縮んでくから
手の中の長さはそのまま
おかしな色もそのまま
何分か前に通った店の
鉢植えの枝から
生えていた
背の低い木は
冬だから当たり前だけど
春になれば芽がでるんだろうけど
今は糸が生えてるだけ
しゃがみこもうとして糸を
放した
途端
肩先をかすめて伸びる伸びる
ぐんぐんぐんぐん伸びて伸びて
高く高く遠く遠くとおく
逆
光
それきり
糸は見つからず
描いたカーブの跡だけ
思い出せない
色
枝の先には硬い芽があった
春には芽吹くんだろう
おかしな色
もう茶色
2
枝の先から
つぃ と
放物線
駅前通りのポプラから
ビルをかすめ
遠く
シャンゼリゼ
静かにそっと
枝の先へ
様子を窺う
少し焦らして
小さく音が
頭上を覆う
放物線の群れ
高く接点
くるりと鳶
3
ここは鞠の中
幾重にも巻かれ
宇宙線さえぎる
穏やかな日々
綻びるまで
鞠の中
街は静か