ある冬の日、寒空
林帯刀



引っ張られたから
振り返ってみたけど誰もいない
左手は引っ張られたまま
そこから伸びる

からんでいる指の先
坂道

たぐってみた
釣り糸みたいだけど
おかしな色してて
縮んでくから
手の中の長さはそのまま
おかしな色もそのまま

何分か前に通った店の
鉢植えの枝から
生えていた

背の低い木は
冬だから当たり前だけど
春になれば芽がでるんだろうけど
今は糸が生えてるだけ

しゃがみこもうとして糸を
放した
途端


肩先をかすめて伸びる伸びる
ぐんぐんぐんぐん伸びて伸びて
高く高く遠く遠くとおく



  光




それきり
糸は見つからず
描いたカーブの跡だけ
思い出せない



枝の先には硬い芽があった
春には芽吹くんだろう
おかしな色


もう茶色







枝の先から
つぃ と
放物線

駅前通りのポプラから
ビルをかすめ
遠く
シャンゼリゼ

静かにそっと
枝の先へ

様子を窺う
少し焦らして

小さく音が


頭上を覆う
放物線の群れ


高く接点


くるりと鳶







ここは鞠の中

幾重にも巻かれ
宇宙線さえぎる

穏やかな日々



綻びるまで



鞠の中

街は静か





自由詩 ある冬の日、寒空 Copyright 林帯刀 2003-10-12 08:59:49
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