朱色の記憶 落下
砂木



薄い靴下に 冷気が渡ってくる
凍りかけた土に 残る雨水
青につらぬかれた 空が濁る

遠い所で カラスが鳴いた
歩く頭上を 羽音がかすめる

振り返ると 朱色の実が いく粒か
枝葉ごと 木蓮からだいぶ離れてある
屋根の上 テレビのアンテナに隠れるように
一羽のカラスが こちらを見ている

かけてみようか

裏の戸から家に入り そっと閉めながら
あのカラスが朱色の実をとりに戻るか
落とした実など かえりみず
新たな餌を 狩りに行ってしまうのか

これから始まる朝

掃除が終わり 
気が付いて窓越しにみると 葉だけがある
くちばしでくわえて どこかで
むさぼっているのだろうか

濃い紫に似た柔らかなサヤが硬くなり
小さな珠を こぼせるまで
さらわれずに 居ることも出来ず

遠くで聞こえたカラスの声は
木蓮の近くに他人が行くという警告
自分達のものではないと知っていても
手に入れたい朱色

落ちた葉を片付けたら共犯
地面の上 葉は乾き身軽になって
土に暮れる

山影の下 木蓮は 営み続ける
 




自由詩 朱色の記憶 落下 Copyright 砂木 2010-10-20 23:19:01
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