朝刊配り
たもつ

 
 
マリアナ海溝の深さに目が覚めてしまったので
朝刊を配りに出かける僕の毎日が
あちらこちらから、それは誰の所為でもないけれど
くの字や、みの字になって寝ている家族の
まぶたが開いてその奥にある何かしらのものが
流れてしまわないように、そっと朝刊を配りに出かける僕の
僅かな全部が配るべき家と配ってはいけない家を
熟知しているので、その他に注意すべき事項を
かすみ草で作った便箋に箇条書きしていくとあっという間に
三十分経過し、便箋はいつものように白紙のまま食卓に置かれ
朝刊を配りに出かけると昼間に見慣れた街並みが
ドライアイなので目が痛い時間帯であるので
原動機付自転車に乗って配りに出かけると郵便受けから
手の出ている家については深爪していないか確認して渡し
一区画先にある家はいつもピンポンを押さないと
新聞を取りに出てこないのでピンポンを押すと決まって奥さんが
トランプを扇子状にして出てくるのは毎朝
未明からババ抜きに興じているからであった
密閉された原動機付自転車の中では大量発生したザリガニが
苦戦を強いられ、何と戦っているのかわからないのに防衛ラインを
下げていて、でも大量に発生しているから原動機付自転車は手で押す
のが最適な部品の塊でしかなく、首輪に抵当権つけられた犬に吠えられ
うっかり道路の真ん中に埋められた地雷を踏んで僕は蛍になる
一匹の蛍になる
そんな毎日
そして置いてきた白紙の便箋が遺書として残る
僕の毎日
 
 
 


自由詩 朝刊配り Copyright たもつ 2010-10-17 22:26:37
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