横たわるものがたり
かんな
少し屈んで、水平の方向を向くと
君のえりあしがあった
こくん、とうなずいて、イエスを表現する
ことばとはちがう
君の表現なのかな
手を繋ぐことは
ことさら嫌がったので、そのまま
行き場のない手のひらがポケットに収まった
歩いてごらんよ
この原っぱをひとり
おのぞみどおり、こどくを手にいれられる
そして泣いてごらん
なんて考えていること、君は知らない
無邪気に笑って
「しろいちょうちょ」と指さして追いかける
「かえりみちをしってるのはだれなの」
君の髪をうっすら揺らしている
秋風なんだよと教えてあげようか
落ち葉を踏みしめるのではなく
その一枚一枚を拾う
「おはかをつくってあげるの」
そうではないよ
と教えたほうが良かったのだろうか
枯れることと死ぬことには明確な違いがあると
ただその時は
君の行動のほうがなんだか正しい気がした
薄暗くなっていく景色の中で
君は輝いた目をして言う
「つきはしろいの?きいろいの?」
「あのちょうちょはいまはきいろいの?」
なんてことのない変化は
君に大きな変化をもたらすような気がして
月を見上げて
ひとつ、ふっと息を吐く
さあ帰ろうかな
手を取ろうとすると、やはり嫌がるので
行き場のない手のひらがまたひとつ
少し屈んで、水平の方向を向くと
君のえりあしがあった
こくん、こくん、と何度もうなずく
イエスとも少しちがう
何かを
伝えたくて
それがことばでは見つからないことを
君は生まれる前から知っていたみたいだった