火の学会の着席順 清水武夫
鵜飼千代子

 清水昶氏の、デリカシーのない発言を禁止している掲示板「新俳句航海日誌」で、2000.10の頭に、お父上の清水武夫氏の詩集「火の学会の着席順(1974.3.30発行)」に残部があるので欲しい人は連絡ください!と案内をいただいた。武夫氏の還暦のお祝いに、御子息の清水哲男氏と昶氏が企画し、上梓された、武夫氏にとっては、第二詩集となる詩集である。
http://otd11.jbbs.livedoor.jp/1108793/bbs_plain

 このような紹介の仕方は御本人には好まれないと思うが、一般的にわかり易いので以下のようにさせていただく。清水哲男氏はH氏賞受賞詩人であり、長らくFM東京のパーソナリティーをされ、ニフティーサーブのFポエムのアンソロジー「げ・ぱーな」にも文章を寄せていただいた、当現代詩フォーラムの会員ID No12の清水哲男氏だ。哲男氏の弟の昶氏は、教科書に詩が掲載され、地下鉄大江戸線本郷三丁目の構内に詩文が刻まれている、おふたかたとも、よく知られた現代詩人である。
http://www.youtube.com/watch?v=6xAtcdXlBnM&feature=player_embedded#!

 その父君の『清水武夫』氏がどのような詩を書かれるのか、非常に強い好奇心を抱いた。はじまりは、ただただ好奇心である。自らの子育てに「爪の垢を煎じて飲ませていただこう」、そうした若干「とほほ」な理由で昶氏に「詩集希望!」のメールを送ったのだ。

 清水武夫氏の「火の学会の着席順」には、33の詩と、3つの童話が収められている。武夫氏については、哲男氏の「増殖する俳句歳時記」「新・増殖する俳句歳時記」で、たびたびお人柄が書かれているが、一家の大黒柱としての昭和の父、学生時代の哲男氏の俳句を決して褒めなかった、詩句作について甘やかさない父という印象を持っていたが、その「父親像」をイメージすることはわたしにはむつかしい、懐の広い優しい目線の詩集であった。
http://zouhai.com/



風のある教室

 (新学期の澄み切った四十六本の瞳線が
  新しい一人の先生に集中する)
生徒諸君
我々が今から学ぼうとする現代物理学は
深くてたしかな根がありそうですが
電気探索機でさぐってみますと
それは地中三十センチで切れており
ひとえに世間のひたむきな信仰で支えられ
樹幹で諸君からエネルギーを吸い取り
確率とか統計とかいう忍術で
人目をかすめくらましながら
上へ上へと銀河系の外へ広がるのです
しかし今は一念にプラスマイナスを丸暗記し
そいつをすなおに並べて行けば
ちっともおそれることはない
わたしの肺腑からしぼり出す
このト長調の風でさえも
諸君の頭脳がまわりはじめたようですが
そこが一番大切です
ただし慣れると恐ろしいスピードの人も出る
それが楔のぬけた空転秀才病です
彼はアリストテレスがこう言ったとか
ヘーゲルがこう言ったとかいうだけで
鋏と糊で一生まだらな論文をつくる
地球にひび割れが入って
この巨大な物理像が傾いたって
一向さしつかえありませんから
どんなことがあっても
中心軸をしっかりつかんで
思い切りめいめいの風を起こしながら
ぶんぶんまわってごらんなさい
 (風がやみみんなの回転も無事に止まった
  白墨の粉だけは執念ぶかくしがみついて
  新しい先生を離そうとしなかった)



「空転秀才病」という言葉が光る。「空転」。

> 中心軸をしっかりつかんで
> 思い切りめいめいの風を起こしながら
> ぶんぶんまわってごらんなさい

中心軸を掴んでいれば、宇宙に投げ出されない。
それでいいのです、それでいいのだ〜なのだ。



 現代詩碑文

このふちのない
あかるい
わくのなかでだけは
きみは
ほんとうにただしく
まっすぐなものは
まがっていることを
ほんとうに
しることができる
ひかりをみなさい
すべて
エネルギーのあるものは
うずまきだ
ばねだ
なまりいろのそらに
しろくさえて
ひろがる
らせんだ



親しみ深い「らせん」。また、振り出しに戻った。そうして、わたしたちは絶望しがちだが、らせんを描きながら、登って行く、それは、直線の階段よりも、距離は長いながら傾斜は緩やか。ガウディのサグラダファミリアのように、何百年かけて完成させるものの、「高さ」を意識しながら、わたしたちは「らせん」を担って行く。「高さ」を意識しながら。

> ほんとうにただしく
> まっすぐなものは
> まがっていることを

受けとめることが出来た幸せ。曲がっているから間違いと、振り下ろされた斧をわたしたちは避けていいのである。



 火の学会の着席順

前から三分の一ぐらいは
あたまが
菜の花のように
ひかっていた

水色の照明がよくきいていて
みんなを平等に照らしていた
でも
前から三分の一ぐらいは
あたまがたいへんひかっていた

あたまのひかる人々は
みんな前の方にすわった
もちろん
わたしの尊敬する先生がたは
前の方にすわられた

一番前列の
まんなかの席には
底の知れない穴があいていて
ひかりを黒くすいこんでいた
火学の泰斗
あのまばゆかったS先生が
さいきんなくなったのだ

O君にあった
あたまをひからせながら
おーと言った
もう一人の
O君にあった
あたまをひからせながら
やーと言った

おーやーおーやー
あたまどうしがきらきらひかり合って
いっときがやがやした

じぶんが硝子にうつっていた
あたまは
煙突のすすのように黒かった

一番後の席に
そっとすわった
じぶんもあんなにあたまがひかるまで
ご飯をたべるのを忘れて
勉強しようと思った



 前から三分の一の菜の花畑は、女性ホルモンの減少から頭髪がしょぼしょぼとしだし、身体から滲み出す油が蛍光灯の光を反射しているということを形容している訳ではないであろう。自らの学会の前方三分の一は「いちめんのなのはな(草野心平)」である。後光を受けながら、最前列中央のブラックホールに思いを馳せる。わたしも、自家発電で頭が電球のように光る、人になりたい。



 引用の要件は、引用文の三倍、批評文が書かれていることである。清水哲男、昶兄弟は、そうしたことより広く詩句歌が知られることが大切と考えて活動をされているが、「経済」に晒されているわたしたちは、そのことを臨機応変に考えなければいけない。このたびの「ノーベル賞」受賞についても、「特許」を取らなかったことが、広く研究されるきっかけとなり、結果的にノーベル賞受賞になったという逸話もある。sakutaro氏にもインターネットの普及について例を出し、過去に言われたことがあるのだが、パロディーを書かれがちのコアの人は、程よい関わり合いを考える必要があるだろう。パロディー作家が印税で生活出来て、元ネタの作家が生活保護を受けられるかどうか命の瀬戸際では、元ネタは黙りを決め込みたくなるのは当然だが、ギブアンドテイクの関係に持ち込めれば、双方が痛み分けを出来るような気分にもなる。

 

「新俳句航海日誌」にかつて掲載された写真を元に、わたしがパソコンの画像ソフトで描いた絵である。手前のフード付きパーカーの人が清水昶氏で、毛糸の帽子がキスチョコの形に似ていたので、顔を描いて投稿したのだが、『あれはなんですか』とたずねられてしまった。掲示板でのごたごたに会議を開いている最中の写真で、笑いをとるところではないのだが、昶氏に懐いているわたしの気持ちが、このように、キスチョコに顔まで描いてしまう画にさせてしまった。10/16の内に投稿したかったのであるが、日にちを跨いでしまった。



 2004.4.29に催された「ほっと・ポエム展」朗読フェスティバルに天彦五男氏も誘ったのだが、お越しにならなかった。二次会で八木忠栄氏と同じテーブルになることが出来て、少しお話もさせていただいたが、わたしが言ったことは「天彦五男さんと仲良しなんです」くらいで、八木忠栄氏が仰ったことも覚えているのは「清水哲男もマイクが無いと喋らない」くらいで、井川博年氏が、「清水哲男さんは土肥あき子さんを可愛がっている」、と仰ったくらいかな。それは、詩歌を愛している人のお話で、異性だったら即、如何わしいことに考えを繋げるのはよっぽどの暇人、というイメージに即した世界での会合だった。この時の出会いで、八木忠栄氏に詩集を送ったのだが、いただいたハガキの切手がキティーちゃんだった。わたしはミッキーの方が好きです。けれど、お返事をいただき嬉しかったです。

 「書肆山田」の「書肆」が読めず、しょかんだとか変なことを言って、同年代の詩人は少ないですと仰っていた方に「しょしやまだ」です、と教えていただいたのだが、鈴木一民氏が、居酒屋から持ち出して外で焼き鳥を食べているところを写した写真は自分的には凄く好きだ。凄く好きなので、伸ばして額そうしてサインまでして書肆山田に送ってしまった。

 本当に、もう書くことが無くなった。「火の学会の着席順」は、清水武夫氏の還暦のお祝いに、哲男氏と昶氏が企画し、上梓された詩集とのことだが、収録されている詩は月刊誌「詩芸術」に掲載されたものだ。読後、「清水武夫」氏から広がる世界で、遊ばせていただいた気分でいる。清水武夫氏は、「花火の話」が何ヶ国語にも訳されている花火の世界の第一人者で、世界の「ドクター・シミズ」でもある。息子世代が70代、孫世代が40代、ひ孫世代が20代だろうか。「清水武夫さんの詩!読みました」パワーが、年初から入院されている清水武夫氏に伝わればと思う。もう、昨日になってしまったが、昨日は清水武夫氏の98歳のお誕生日だった。

お誕生日おめでとうございます。わたしたち後輩詩人のために、たくさん生きてください。 =*^-^*=にこっ♪


散文(批評随筆小説等) 火の学会の着席順 清水武夫 Copyright 鵜飼千代子 2010-10-17 01:09:27
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