ハード・レインは水のブリット
ホロウ・シカエルボク





まんべんなく塗り潰された
午後からの狂想はふたなりだ
気分次第で
どんな快楽にも飛べる
吐き出すも飲み込むもお手のもの
トップレスの神官はすでに出来上がっていて
よだれを垂らしながらこちらへ歩いてくる
胸は小ぶりだがかたちがすごくいい
だけど俺はまるで反応しない
庭園の方には木蓮の枯れ枝にからまって
ふたりのヒルコが複雑にまぐわっている
あの腕のどれか一本をもぎ取れば
彼らのバランスはすべて壊れそうな気がする
雨が降りそうだから
噴水のそばで始めるのは遠慮しておくよ
丁寧に断ったが
俺がこだわりたい理由はまるで他のところにあった
音楽が流れている
クラシックには詳しくない
見目麗しく手を取って踊りに誘うものの
季節の変り目にやられた鼻から透明な汁が垂れている
踊ろうよベイビー、べべベイビー
造花だけどだからこそ精巧で大胆な
薔薇をロールシャッハ的に交わらせたロビーでいい
そこでどんな舞踏家も試そうとはしなかった
初めてのステップでプールサイドのたるんでる女たちの度胆を抜こう
彼女たちは立ち上がって叫ぶはずだ「まあ!」
俺は投げキッスをして調子に乗るのさ
したことのない高飛び込みにチャレンジして
15メートル上から水面にスイサイド
新しいステップの後だからそいつが生きてくるんだ、わかる?
女たちは悲鳴を上げるけれど
その後すぐに優越感に浸るはずさ
まともに生きてりゃそんなもの見ることなんて出来ないからな
庭園に雨が降り始める
ノアの洪水のように容赦なく
激しい雨を見ると子供のころを思い出す
雨粒に打ち抜かれたとき
サイコ・ガンみたいな何かを手に入れたような気分になれたものさ
プール・サイドの女たちはみんなして立ち上がり
冴えない水着を脱いでプールに投げ捨ててから
遠心力の実験をしているみたいなウォーキングで
奥の更衣室へ順番に消えていった
まるで養豚場の処分を見てるみたいだった
「グロ動画 閲覧注意」と
俺は呟いた
トップレスの神官が突然凄いゲロを吐く
異星生物みたいにそいつは水面でダレていく
ああっ
果てしない機関銃のスコール
「今夜、誰かが死ぬかもしれない」といううたを歌っている
俺は知らない振りをするが
見透かされたみたいで恥ずかしくて仕方がない
慌てたものだから飛び込み台へすごい速さでかけのぼって
レディ・ゴウ、華麗なダイブだ
落ちるときに時間軸のない愛の羅列を見た
パァン、と水面で音がして
俺は底へと誘われた
暗い目の男が膝を抱えて座っていた
俺を見てにやりと笑った
俺は急いで浮上した
誰かが俺に駆け寄ってきた
大丈夫ですか、と若い男が言うので
「底に男がいるよ」
「生きてるやつですか?」
「死んでるやつだと思う…エラで息してるわけじゃなければね」
「それなら問題ありません」
いけませんか、というような調子でそんなことを言うので
そいつの手を掴んでプールに放り投げた
「アディオス!」
もがいてるそいつのか細い声を背中に聞きながら
そういや水底にいたヤツもあんな顔してたかもな
と、少し思った
だからなんだというのだ?
トップレスの神官はたるんだ女たちが去ったあとのプール・サイドの椅子に腰かけて
俺が意外とあっさり生還するのを待っていた、その
私にはそんなことは初めからわかっていた、とでも言いたげな表情を見て
ああもう、どこだろうとこいつとしなくちゃいけないんだろうな、と
俺はなりゆきを悟るのだった
庭に居た一対のヒルコは
仰向けで雨に流されていつしか見えなくなった






自由詩 ハード・レインは水のブリット Copyright ホロウ・シカエルボク 2010-10-16 10:51:45
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