星の航海術(スター・ナヴィゲーション)
楽恵


掲げた手首に引かれた風コンパスと炎の赤道は喉を掻き切り流れ出す椰子の黄色い核が浮き沈みする痕では半人半霊の拝む太陽の焦点も焦げている瞳孔と溶けるチョコレートの肌に押し寄せる波濤そして火傷するほど疾走する尖った舳先にミクロネシアの熱い鳥が羽ばたき覗き込む波根は躍動し暴れ狂うクロ髪・アカ髪をおさえて水の母胎はあまりに気の遠すぎて青強く脈打っている深淵……カヌーよ 

私をみちびいて欲しいどこまでも未だ国境なく国旗ない帆にうけて偏西風を絡みとりスピードを増しながら調子の鐘が鳴り響く血が噴出す汗を拭いながら櫂を漕ぐ影揺れる腕(かいな)を広げた水平線の向こうに白い巨神が横たわる世界の始原をまだ憶えている顔つきで今もこちらを睨みつけながら流星を降らせて戦いを挑むけれどこちらも負けじと雄叫び睨みかえすこの背には巨魚の黥身その渦巻く生眼を見よ

鯨ゆく大洋の果て最果てに未知なる島々島とかぐらの霊力を降ろす巫女たちの予祝は目印となる岬から首を伸ばして踊り歓(あま)えて今か今かと待ち受けている誉れ抑えきれない嵐の高鳴りを越えるのは外洋航海用のシングル・アウトリガー・カヌーは荒波による転覆を防ぐことができる構造の独木舟やがてたどり着くまであるときは黒潮も頼りなく漂流し彷徨い迷う星はけれど目視の航路を必ず取り戻す貝  はひたすら汗を滴らせて泡を追いかけるDNA 

生まれ裸足となり歩き出し飽きもせず海を眺めているトビウオこちらを待っているもののために一万十百年の血脈を連れ族の針路は北北西に向かい恐れもなく大洋の断崖を渡る旅浅く日焼けした私も会いにいくのだ南方より












自由詩 星の航海術(スター・ナヴィゲーション) Copyright 楽恵 2010-10-14 08:45:33
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