死者はもう行ってしまったよ
真島正人


壊れてしまった
停留所で
細々と
息を潜めていた

寒さで
空気が張り詰めていた
吐く息が
白くなって
白くなった

僕らが想像していたよりも早く
バスは出てしまったよ
土の中にいた死者は
とうとう死んでしまったよ
東京にいても
ニューヨークにいても
同じことなんだよ

物語は物語としてあるために
ずいぶんと苦労をした
君とお菓子屋で
会うために
待ち伏せをした

寒さで
空気が張り詰めていた
吐く息が
白くなって
白くなった

僕らが想像していたよりも早く
ケーキは溶けてしまったよ
土の中にいた死者は
とうとう死んでしまったよ
10月は
草の色も少し
ぐずついて
くすんでいるよ

はじめからなかったものが
あるようになると
変な気分になった
はじめからあったものが
消えても
あんまりピンとこなかった

君がくれたたくさんの
海の絵葉書を
僕は知らなかった
その海は
僕の中で
本当の海になった

僕が想像していたよりも早く
魚は卵を産んだよ
土の中にいた死者は
とうとう死んでしまったよ
海のひと雫が
この土地に零れたら
それは下に
もぐっていくよ


自由詩 死者はもう行ってしまったよ Copyright 真島正人 2010-10-12 00:27:20
notebook Home