夕刻 三角広場のベンチにて
塔野夏子

空には虹色をした魚の天使たちが満ち
人々は時々輪郭を失くしながら行き交っている
その人々のあいだを
宛名を手書きされた手紙たちが
それぞれの行き先へと急いでいるのが見える
街はずれの丘の上では
ゼリーで出来た道化師が
硝子の旗をきらきらと振っているようだ
この広場の真ん中の逆さ噴水のそばで
デイジーで縁取られながら踊る彼女を以前見かけたのは
中空に浮かぶあの白いアサイラムの
中庭ではなかったか

ふと気づくと手の中でジョーカーのカードがにやりと笑い
空中に淡い色どりの錠剤たちが浮遊しはじめた
これはきっと彼が
風にはためきひるがえる鍵盤を
それでも弾きこなす指たちを持つ彼が
もうじきやってくる前ぶれにちがいない
僕らそれから
連れだってなじみの店へ行くだろう
その頃のぼってくる今宵の月は
きっと紫色だ





自由詩 夕刻 三角広場のベンチにて Copyright 塔野夏子 2010-10-11 20:27:32
notebook Home 戻る