木漏れ日のひと
恋月 ぴの

真っ直ぐな道は歩きづらい
かと言って迷路みたいでも困るのだけど
適度に曲がりくねっていて
ちょうど昔ながらの畦道のように
赤い帽子によだれかけしたお地蔵さんが祀られているとか
時には肥だめみたいのもあって
わざと落ちそうな仕草で笑かしてくれる

そんな道は懐かしさと片付けられてしまいがちだけど
歩き疲れた心にも優しげで
解けた靴紐直そうとかがんだ先にはどんぐりの実ひとつ

かさこそと折り重なる葉陰からこちらの様子を伺っているようで
ひょいと跨いだら先を急ぐふりなどしてみた

緩斜面を回り込むとやがて小さな集落に出会う
ひと気の無い閑静な家並みとお役所仕事らしい真っ直ぐな道

どんなに雨が降り注いだとしても水溜りなどできる余地も無い
ひとの歩むことなど配慮し忘れたような真っ直ぐな道

真っ白なガードレールは眩しすぎて
こんにちは

って誰に挨拶すれば良いのだろう

最後の六年生が卒業して廃校となった小学校
今でもチャイムが鳴れば子供たちが教室から飛び出してくるようにも思え

閉ざされたままの校門からは秋の日差しが人恋しげに延びていた

かつては雑貨店だったのだろうか
シャッターを閉ざした看板の手書き文字消え失せて
道路に面した軒先にはお地蔵さんの替わりにコーラの自動販売機
これだけが文明の証だと言わんばかりに鎮座している

白々しい明かりに引寄せられたのか長い夜を物語る吸殻の数

よそ者の安らげる場所など何処にも無いのだと
躊躇いを赦さぬ真っ直ぐな道は当て所ない旅の出立を急かす








自由詩 木漏れ日のひと Copyright 恋月 ぴの 2010-10-11 20:26:54
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