光景
小川 葉

 
 
病院の待合室で順番を待つ
備え付けの椅子に座り
備え付けのテーブルに置かれた週刊誌を読む
言葉の意味はわからないけれど
挿絵などを見る限り
最近の出来事がなんとなくわかる
あれは誰の自転車なのだろう
窓の外を走り過ぎていく
可哀相なわたし
いつまで待っても順番が来ないので
お金も払わずに病院を出ていく
診てもらう体さえなかったのだ
あれは誰の飛行機なのだろう
秋の空高く飛びつづけている
いつしかわたしは
飛行機の乗客席に座っている
パイロットのいないとても狭い機内で
高度のせいなのだろう
息がしにくかったけれど
はじめから息をしてなかったので楽だった
窓から見下ろせば
見たことのある景色がまだ見えている
人を乗せずに走っていた自転車が
今は誰かを乗せている
ごくありふれた光景もまだ見えている
 
 


自由詩 光景 Copyright 小川 葉 2010-10-10 04:35:06
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