一人暮らし
小川 葉

 
 
一人暮らしするのだと言って
秋が家を出ていった
おかげで夏が終わると
すぐに雪が降るので困ったけれど
お盆とお正月だけは帰ってくれるので
夏は涼しく冬は少し暖かかった
一人暮らしはどうかと尋ねると
秋はひゅうひゅう木枯らしを吹かせるだけで
何も答えなかった
この家に帰ってくる気があるのだろうか
母はいつもそのことが気がかりだった
妹もとっくに嫁に出してしまったし
今年は父さんが死んだ
母だけが残されて一人暮らしをしていた
いつのまにかこの家の季節は
夏だけになってしまった
しかも残暑
いつまでもヒグラシが鳴いているのだった
秋は妻を娶っていた
幼い子供もいた
けれども秋は木枯らしを吹かせるのに忙しくて
やがてみずからも秋になっていた
一人暮らしは淋しいことも知っていた
あのころ四人家族がいて
そこにはちゃんと四季があるのだった
秋は自分が一人暮らしをしたせいで
母が淋しく一人暮らしをしてるのだと思った
けれども秋は秋であることでしか
すでに生きることができなかった
早く家に帰りたい
そう思えば思うほど
秋は木枯らしを吹かせて
自分以外になることが
もはやできなくなっていた
そんな夜には夢をみた
春は父さん
夏は母さん
秋はぼくで
冬は妹
空には家族が残っていた
あの日四人で見たり見なかったりした
おなじ空があることに感謝した
生きている限り
やりなおすことができるはずだ
秋の空を見上げながら
私は思っていた
 
 


自由詩 一人暮らし Copyright 小川 葉 2010-10-07 02:11:44
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