沈黙の表情
高梁サトル


どれほどの心が割愛されているかを考えれば
事象としてのみ繋がることを選んでゆく日々
シーニュの隙間から零れ落ちてゆくものらの
見えない表情を想うほど愛を思い知ってゆく

あどけない季節の残照のような瞳の温もりを
抱き合いまるくなり結実を結ぼうとする体は
空に頭を垂れる稲穂のゆるやかな曲線に似て
風に揺れる葦の茎のようにどこか頼りなくて

足首に絡むへその緒を手繰り寄せたその先の
暗闇の長い坑道を手探りしながら進んでいく
恍惚の後の白痴の光を怖がらずに迎える朝に
またひとりぼっちになってしまった手を繋ぐ

あなたを産みたくてわたしは産み落とされて
わたしを産みたくてあなたは産み落とされる
親のように子のようにけして途切れない絆を
なんと形容しようか考えてまた口を噤む今日

小高い丘にようやく辿り付いて眺める景色は
望んだものでなかったとしてもきっと優しい
沈黙が包み込むものであることを分かち合う
けして激しく強いものばかりが愛ではないと

同じような顔で笑うあなたがあらわしている


自由詩 沈黙の表情 Copyright 高梁サトル 2010-10-06 01:29:30
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