黎明/sign
月乃助

臨海線を越えれば
また一つ忘却の朝が 時計仕掛けのようにやってくる


未だ
ためらいのない無残なライトの明かりを車たちは放ち、


散水車の水のはねる音に
まどろみを破られた
わたしは、一羽の海鳥だった
それは、
古城のようなホテルの風見鶏にも似た


片足だけで器用に立っている
瀟洒な建物の飾り物


眼下の
林立するマストの向こうの海は、
暗さを増したまま 眠っているはず


潮風の中 
冷静さを装った疑いを知らぬ朝陽が隠れている
出番を待つ役者のように


赤い縁取りをした鳥の瞳に
囚われた女が急ぐ
ベルモントの通りを足早にゆく
ホテルのシャンデリアのもれ出る明かりをふみしめ
焼きあがったパンを抱き
その香りに ひととき街の臭いを忘れている


四つ角を曲がったその足音が、
いつまでも どこまでも 続く
今日が、またここでくり返されることに、
何も感ずることを許されずに


海岸の小蟹をついばみ
裏通りのダムスターを漁る
媚を売る鳴き声に
公園の老婦の投げるえさをありがたがる 今日がくる
空のはるかな自由に どこへも行くことのできない翼を広げる




LetitgoLetitgoLetitgoLetitgoLetitgo
Away




知らぬ間
海峡に生まれた
すべてを浸蝕する霧がやってきた


霞むように
議事堂の上に立つ銅像の
金色の腕を
朝陽が そのやいば
罰っするように 斬りつけた









自由詩 黎明/sign Copyright 月乃助 2010-10-05 13:17:48
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