大統領
salco

黒いサングラスをかけて見れば
世の中真っ暗だ
青いサングラスをかけてみれば
太陽さえ病んでいる
だが世の中終わりじゃない。
黄疸の赤ん坊は黄色いミルクをよく飲むし
血まみれの群集は市営プールを泳ぎ回り
蒼白の女達は籠一杯の買い物をしているし
黒焦げの老人達は開いた新聞の裏側を読んでいる
時計は何の為にか針を進める
教会の鐘が町の上をゆったり流れる
ベンチの上に木の葉が落ちる
西日が溺れて闇が来る
だが世界の終わりじゃない。

私は鞄を抱えてせかせかと、
会社から出てアスファルトの家路を急ぐ
頼まれた買い物の袋をもう一方に提げ
コンクリートのアパートの鋼鉄のドアを開け
女房と子供達にただいまと言う
それから着替えてテレビの前に座り
ビールを一杯
リモコンで公共放送局を呼び出す
アナウンサーの謹厳実直
だが世界は終わらない。
汗で眼鏡がずり落ちる
夕食までの十分間
TVニュースを聞きながら
私は夕刊の主に社会面に目を走らせる
私は顔を上げる事なく子供達に怒声を浴びせる
その鞄に触るなと言っただろう!
女房が向こうから、
あっちへ行って遊びなさい、と言う
わたしの鞄、わたしの鞄
この鞄には地球が詰まっている
私は今や地球上の全人類を
掌中に収めているわけである。


自由詩 大統領 Copyright salco 2010-10-05 00:59:01
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