魔女
黒い翼
今日もあたしは
教会の外で祈る
ここは聖なる教会だ
おまえのような如何わしい女が
来る所ではない
そこから叩き出された9歳の冬から
あたしは教会に踏み入ったことはない
おとうさまがわたしに変なことをするの
とっても変な感じになって
とっても痛くなるの
神社の茂みで
裸の幼女が
血を流して立っていても
手を差し延べる人間なんか
ひとりとしていなかった
おとうさまと アルプスの少女ごっこをするの
牧場で乳絞りをすると 苦い牛乳が出るの
あたしはこの身体の記憶を
あたしという存在に封印した
生理が止まった どうしよう
おかあさまに怒られる
この身体は死ぬしかなくて
目覚めたらICUのベッドに縛り付けられて
警察も医者も役立たずで
誰もがあたしを嘘吐きだと云った
誰もがあたしを気違いだと云った
誰もがあたしをふしだらな女だと云った
誰もこの身体を慈しみはしなかった
誰もこの身体を救わなかった
誰もあたしたちを癒しはしなかった
戦争か競争しかないこの世で
神さまに捨てられて
神さまに愛されなくて
神さまに赦されなくて
神さまの恵みを授かれない女は
男社会で 男にぶら下がるアクセサリーにもなれず
おとこ女のように
パワーゲームに興じる拝金主義者にもなれず
宝石箱の中のくだらないお喋りにもついていけず
悔しさと
羨ましさと
寂しさと
怒りと
恨みと
恐怖に満たされて
力尽きるまで
ひとりで生きていくしかない
生きてなんかいない
死んでないだけよ
魔女とされ
この身体に出現した
すべての魂は地獄へ行く
魔女なんて
なりたくてなったんじゃないわ
魔女以外に
なれるものがなかった
今日もあたしは
教会の外で祈る
神さまの声が聴こえる
穢らわしい女だ
罪を羞じて死ね
この身体が欲しかったのは
清らかで美しい人生だった