此岸
salco
涼しくなったらさ
秋になったら
河原の芒が風に泣く前に
月が細り始める前に
右手を掘り出しに行こう
あれはまだ絵筆を握っている
才能はないんだ
カンバスの絵はみんなカッターナイフで
裂いて捨てた
だから何で掘り出すかと言うと
楽しい頃の気持の為さ
あれはまだ絵筆を握っているんだから
それぐらいは取り戻せるんだろうと思ってさ
月夜に骨をかじりに行くよ
消えた花火の味ぐらいはするんだろう
昔の昔の自分は亡霊で
年食った今の心も亡霊だ
やり残したことなんかありはしない
全部、埋めた
声もね
不惑、ってそういうことだ
おめおめ生きるとは、
昨日に死んでいるということは、
子供みたいに、自分に泣いたりしないこと
どこが痛くても声を洩らさないことだ
大人とは、そういう死びと
寂しいね、河原の乞食
鑑賞に足る美も芸もなく
口に紅置いて、襤褸引きずって行く