pianissimo words.
Akari Chika

雨 雨
切々と うたう

わたしはピアノを弾いている

絵も描けず
詩も書けず
下手な暮らしをしているが

わたしはピアノを弾いている

今この瞬間
いくつもの
想いが
浮かんでいる

明日の事を 心配したり
花の名前を 考えたり

国の成り立ちを 追い掛けている

時 時
刻々と うごく

わたしは 大変な不器用で

料理も満足に出来ず
お喋りも続けられず
下手な暮らしをしているが

黒いピアノと
庭に浮かぶ睡蓮と

遠くに連なる山
響き合う湖水に

愛情を感じながら ピアノを弾いている

わたしは 決して特別ではなく

世間に無知で
機転もきかず

大変気まずい
人間だと思っているが

楽譜をたたむとき
埃が飛ぶと
何故か嬉しく
思う日がある

音 音
脈々と つたう

あなたは
美しい とか

あなたが
大切である とか

大変恥ずかしいので
言えないが

代わりにピアノを弾いている

写真立ての中の
あなたは美しく
輝いていて
いつまでも色あせない

笑顔は 柔らかく
目尻は 愛おしい

わたしは
下手な暮らしをしているが

あなたとの暮らしは 忘れない

わたしが
誤って 器を壊しても
あなたは
何一つ責めず

わたしが摘んだ花に
あなたが水を差した

日 日
細々と つなぐ

わたしの
知識は乏しく
経験も乏しく

文明から見放された
そう悟る日もある

星が 屋根裏に落ちるとか
月が 二つに割れるとか

わたしの周りでは
そういうことは起きないが

あなたの笑顔が
何より奇跡だった

陽 陽
朗々と 照らす

わたしはピアノを弾いている

涙を落とす代わりに
鍵盤に指を落とし

あなたのための 曲を弾く

わたしは
数多くの言葉を扱う
術を知らず

あなたを
愛してる など

大変恥ずかしいので
言えないが

胸には 風が吹き
草が
延々と
生えている

その丘で わたしがピアノを弾くと

あなたは目を閉じて
耳を澄ます

この曲に
名前をつけることは 出来ないが

あなたは 名前を求めずに

ただ まぶたを閉じて
聴いている

わたしは
涙をこぼす 方法を知らないが

代わりにピアノを弾いている

ただ
延々と

あなただけの ために。



自由詩 pianissimo words. Copyright Akari Chika 2010-09-30 21:12:46
notebook Home