血脈
寒雪
酒を飲んで暴れる親父が嫌いだ
人の言うことを聞かずに
好き勝手放題
周りから忌み嫌われる
子供の頃から
こいつにだけはなりたくない
そう思って
自分を律して生きてきた
周りが息を潜める中
おれだけは
親父の言うことが気に入らなければ
ことごとくぶつかって
お互い生傷が絶えなくて
仲良くしろ
忠告してくれるのはうれしいが
おれが頭を垂れるよりも
向こうが折れてくることが
おれにとっての勝利
そんな親父が死んだ
心筋梗塞であっけなく死んだ
死んだと電話口で
母親から聞かされても
悲しくはなかったけど
なにかあまりの唐突さに
心の中が真っ白になった
なにがなにやら
自分でもよくわからないまま
家に帰って
親父の骸と対面した
その時親戚が
ほんとあんたと親父はよう似とったね
何気なく呟いた言葉
血流が勢い良く逆流していくのがわかる
頭の中が沸騰して
視界が真っ赤に染まる
ふと気がつくと
おれは
血脈の中を旅している自分に気付いた
どんなに自分を取り繕って
聖人君主のように生きたとしても
長い年月をかけて脈々と
つないできた遺伝子の連鎖
おれは
紛れもなく親父の遺伝子を持った男
逃れられないのか
そばにあった剃刀で
自分の頚動脈を勢い良く切り裂く
飛び散る飛沫を
薄れゆく意識の中見つめてる
全身から血液という血液が
外に出てしまえば
おれは
血脈と言う忌々しい言葉から
逃れられるのか
答えが必要なのかどうか
今のおれにはわからない