対話
寒雪
窓から忍び足で差し込む
不躾な月光に映し出される
三原色な部屋の中で
目を閉じると
白い影の男が気配なく
同じポーズで座っている
頭の引き出しをかき回して
口元に浮かぶ言葉を
男に向かって投げつける
煮えたぎった言葉も
薄くスライスした思想も
男は月明かりに白く浮かんだ
輪郭を隠そうともせず
混じり気のない言葉を
同じトーンで必ず返す
男は白い影以外何も持たない
顔を覗きこむと
ピンボケな記念写真の中や
湯気で曇った銭湯の鏡や
掃除の行き届いたショーウィンドウや
様々な場所で見かけた覚えはある
話し言葉を持たない日常
効果音が飛び交う世界は消え去り
体内に染み込んだ言葉を出し尽くしてしまおうと
唇をあくせくと動かす
男は言葉の欲望を理解して
言葉を満足させる心を返す
時には首を傾げることもある
それも楽しい一風景
急ぎ足で通り過ぎる雲に
手を掴まれて月が帰っていく
男は朝焼けの情熱で火傷する前に
挨拶もなく唐突に消え去る
目を開けると
緑色に輝くサボテンが
やけに白々しいいつもの部屋
対話を終え
眠りにつこうと
瞳を突き刺そうとする太陽から
逃れるために布団をかぶった