ラブ・ラプソディー・ブルー
木屋 亞万

恋人がほしいと呪文のように唱えていたら
顔もわからぬ女と激しく抱き合う夢を見た
寺のような板間のうえで
薄いテラテラの布地のワンピースを着た女
黒い髪の女
ちょうど私の上に覆いかぶさるように
そしてただ物理的に私の上にのって
もぞもぞ動いているだけだったその女が
すごく愛しくなって
目が覚めたとき少し悲しかった

恋人がほしいと呪文のように唱えていたら
顔もわからぬ女に土下座しながら求婚する夢を見た
鼻水を垂らしながら嗚咽やしゃっくりやら何やらで
訳がわからないような状態で
好きだ好きだと言い続けていた
その女のことはそれほど気にしてはいなかったが
その行為自体に何ともいえない快感があった
女は何の反応もせずふてぶてしい表情で中空を見つめている
目が覚めたとき少し自分が悲しくなった

恋人がほしいと呪文のように唱えていたら
その呪文の効果が切れてきているように思える夢を見た
髪の長い女が胸から血を流しながら歩いている
それは私が好きだった女だ
彼女の白い服は血で赤い染みになっている
歩きづらそうな彼女を脇で支えながら
手当てができそうな場所を求めて
百貨店をうろうろ歩き回ったが
そこに彼女を治療できるところはないようで
やがて彼女の息が細くなって
死んでしまうかもしれないと思ったときに目が覚めた
何かが終わっていく気配だけが頭の中に渦巻いていた

そのような夢を見た後で
食料の調達のために商店街へ出かけた
そこですれ違うのは主婦や子供連れの母親
部活を終えた女子高生、帰宅途中のOL
そしてスーパーでバイトしているのは女子大生だ
思ったよりも多くの女が近所にいるのだなと思った
もしもこの中に夢に見た女がいて
その女と今日のうちに恋に落ちたなら
それには少なからず運命や
奇跡というものが関連しているのだろう
すこし期待感を抱きながら夢の女を思い出していたら
髪の長い女が自転車で私を抜き去っていった
その女をぼんやり目で追っていたら
左後方から来ていた車に危うく轢かれそうになった
現実はこんなもんだよなと思った
帰りに買ったたこ焼きは結構上手かった


自由詩 ラブ・ラプソディー・ブルー Copyright 木屋 亞万 2010-09-25 19:01:55
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