見張り塔から
塔野夏子
この過剰なしかし稀薄な世界たちの中で
見張り塔から
いったい誰が何を見ている?
何が見えていても無駄かもしれない
かたちの無い革命もどきが
気づくと僕らの意識を下から暗く蝕んでいる
そんな気がしてしまう
どんな多義的なゆらめきに満ちた暗示も
あっけなく薄っぺらな断面に変え増幅してしまう装置が
僕らの意思の届かないところで
いつからかとめどなく稼働しつづけている
ここからでは何もかもよく見えない
ただ旗のまわりを黒い鳥たちが群れ飛んでいる
過剰なしかし稀薄な世界たちに囲まれて
見張り塔から
いったい今誰が何を見ている?
増幅装置の生み出すひどいノイズのせいで
今や見張り塔の位置さえ
さだかにはつかめなくなっている
(いちどは僕みずからが
あの塔のてっぺんにいたのではなかったか)
黒い鳥たちの群れを透かして
もういちど見張り塔を見い出せるか?
そしてそのてっぺんへとのぼってゆけるか?
そこから何が見えるとしても
もうすべて無駄かもしれなくても
そしてできることならそこから
きらめくような花束を投げてみたい
過剰なしかし稀薄な世界たちのただ中へ