かに座12位
セガール、ご飯ですよ
役場に呼ばれて俺は行った
お前が確定申告をしなかったがために
県民税・市民税の徴収に差し支えが出ている
ついては指定の日時に必ず出頭するように
そんな葉書が送られてきて困るのは
俺には確定申告をすべき収入がゼロであったこと
そして今現在もなお継続してゼロであること
未だ被扶養者の身分で人糞製造機と化していること
あゝ無職であるがゆえに役場への出頭を命じられ
あゝお役人の面前でもって無職無収入を自己申告
こんなことになるくらいなら働いておけばよかった
時給650円のもやし洗いでもやっておけばよかったと
途方もない後悔に苛まれながらも俺はしかし行った
平日の真昼間に出頭を命じるというのはやはりこれ
向こうでもその旨承知しているからであって
てめえどうせ無職で暇してんだから文句言わねえで来いと
つまりはそういうことなんだろうな嫌だなあ怖いなあ
などと考えながらとぼとぼ歩いていった役場の二階
乱暴に書きなぐられた案内の張り紙を頼りに
身を縮ませながらようよう手続き会場に行ってみれば
そこにはあゝかつて同じ学び舎に学んだ旧友
それも当時ちょっと憧れていた感じの女性が
首からIDカードぶらさげて立派な公務員
むずかしい用語をバンバン使いこなして
きびきびと動き回っていたのである
うわあと俺はさすがにそこでは思ったね
そして同時にものすごく嫌な予感がしたよね
案の定俺が通されたのは彼女が受付をするブースさ
呼び出し葉書見せたらアハハ二度見なんかされたりして
それでも向こうは仕事中だ社会人だ当然知らんぷりで敬語を使うさ
前年度の収入はどのような塩梅でって趣旨のことを聞かれ
俺は激しくどもりながら極めて小さな声で無職の無収入ですって敬語
そしたら彼女ちょっと驚いたような顔でまったくの無収入ですか、って
ちょうど目の前に入力端末としてDELLのカンピュータがあってね
俺ずっとその銀色のエンブレムを見つめながら受け答えしてた
えー、○○さんは扶養は外れていらっしゃいますよね
いえ、その、父の扶養に入っていると思うんですが
あっ、そうでしたか、えー、それでは少々お待ちください
どうもお手数かけます、なんて俺言われるがままに待ってた
彼女すらすらと書類に書き込んでいくから覗いてみたら
所得の欄にゼロ、ゼロ、ゼロってゼロをいっぱい並べ
それではこちらに記入捺印お願いします、って差し向けてきた
だから俺すぐに住所氏名生年月日に電話番号書いて捺印
するとまたもやキーボード打ってた彼女、少しくくだけた調子で
○○さんって、いまお幾つでいらっしゃいますか、なんて言うから
俺いよいよもう駄目だと思って素直にはっきりと実年齢を伝え
なにかを確信した彼女が明らかなる憐憫の視線を向けるのに耐えきれず
それからもはやDELLのエンブレムさえ見つめることが出来ないで
ずっと自分の膝頭見つめながら書類控えを受け取り説明を聞いた
今年いっぱい状況が変わらないようでしたらご自宅に同じ書類を送付しますので
その際は必要事項を記入したうえで郵送していただければ大丈夫です
もし今後どこかに就職なさった場合は会社経由で自動的に手続きされますからと
あたかも先生のごとき口調で懇々と言い聞かされるのに心が折れて
ほとんど逃げ出すようにして手続き会場を後にした俺は
そのまま階下の職員食堂にてもりそばを注文してまずさに愕然とし
失意のままに飛び込んだピンサロでは高校時代の恩師そっくりな嬢にぶつかって
20分間時間いっぱい竿先をチロチロ舐められるという怠慢プレーでジョーカー
泣きながら駅の便所に飛び込みマキロンにて消毒を敢行したら大いにかぶれ
先日梅毒治療を終えたばかりの皮膚科クリニックに助けをもとめたら
若い新人ナース見守るなかたっぷり10分間に渡って陰茎の露出を求められた挙句
あのねえこないだのは皮膚疾患も出る病気だからうちでも診てあげられたけど
でもねえチンチン関連のことは本来皮膚科じゃなくて泌尿器科に行ってよねと説教され
顔を真っ赤にして診察室を出ればそこには母のパート先の同僚
もっとも俺は全然知らない人ではあったが何故だか顔が割れていて
まったく余計なことをしたもんで今息子さんに会ったよ、なんて母にメール送付
俺は本当は今日アレルギー性の慢性皮膚炎でここに来ているはずだったのが
どうにもチンチン関係の疾患であることが漏れ聞こえていたようで
なんともない顔して薬を受け取り自宅に帰ってみたところ
かつて医療機関に勤めその方の知識に長ける母親
過去通院分に遡ってのレセプトを開示するように要求
その尋常ではないオーラに気圧されおずおず差し出してみれば
薬局側のレセプトに記された抗生物質の処方量を見逃さず
もはや引っ掻き傷の化膿止めとの言い訳もきかずに
小遣い暮らしの無職による悪所通いの事実を暴露させられる始末で俺
大人になってから初めてってくらい泣かれて叱られて泣いた