遠いものたちが
岡部淳太郎
遠いものたちが
ばらばらになって
散らばり
それぞれに互いがわからなくなると
世界はいったん
完成されたような
そぶりを見せる
燃えたあとの灰のように
のこったまま
離れを保って
短い呼吸を繰り返す
遠いものたち
それだけで自足しているような
ふるまいを見せているものの
中身の詰まった缶が
開けられるような音が
ふいに響きわたると
隠されていた未踏の
郷愁が解き放たれる
この風景は
離れを引き寄せ
葉に梢を
川に海を
人に霊を
思い起こさせる
これらばらばらに
のこされたものたちに
淋しさを問えば
世界は壊れて
同じようにばらばらに
散らばってゆく
だがやはり
葉は葉であり
川は川であり
人は人であり
それぞれの離れは
清らかなままで保たれている
その道が少しずつ延びて
遠いものがさらなる遠さを
まとうことはあっても
道を縮めて
近いものになることは出来ないだろう
夜になり
その暗さで
離れが凍りつく時
空を見上げれば
それぞれに離れを保った
遠いものたちが
あつまって
この遠さからのみ見分けられる
星座となる
いまという過去の中で
燃えている
かたちを
つくっている
(二〇一〇年三月)