零のうたごえ
高梁サトル


私が殺した父母の名は
何度も産み直そうとした起源
月が満ち止め木が外れ流れ出す
無数の零の残骸
反芻する昨日の
無限に続く今日の
家族を殺して先へ先へと
何者にも成れぬまま
アプリオリへと組み込まれてゆく
その何処に安息が在るというのだろう
しろい明方呟いて
硝子ケースに並べたレトリックを選ぶ
嘘になりたいと思えば
嘘になれるかなしみは
何億の零のゆめを代弁するように
交わしたことのない指先に纏わる
守られることのなかった約束を
忘れたわけではないのに
思い出すこともない
聞くことさえ叶わない
父母を探す
やさしいうたごえ



自由詩 零のうたごえ Copyright 高梁サトル 2010-09-23 01:22:55
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