流すひと
恋月 ぴの
用を足すだけなんだけどね
うら寂しい公園の片隅にあるのは決まって便所ってやつで
おおむね和式の便器しかなくて
紙なんか無くて
げげげのお友だちなんかの手が暗闇からぬらりひょん
べんじょ・べんじょ・べんじょ・べんべん
なんだか怖いんですけど!
そんなときに限って女はがまんできないんだから
近頃ティッシュって駅前とかで配られていないのを思い出す
便所じゃなくてトイレなんだよね
リニューアルされた駅ビルには豪華なトイレ
パウダールームなんておしゃれさんだから
ウォシュレットは当然だし
デート中のお化粧直しに気合入って
げげげのお友だちだって近寄りがたい気がするな
生死と相対する現場って無機質なんだよね
ハイヤーの運転手さんのような白手袋が恭しくも一礼すれば
台車に乗せられた棺は有無を言わさず火葬炉のなか
これって冗談でした!なんて許されるはずもなく
それだからこその斎場ってやつだから
大理石じたての前室にオマルがひとつ
おもむろに跨っては
にょろっと一筆書きを形見代わりにひねり出せるなら
人生の悩みなんてどこ吹く風とウォシュレットのボタンを押した