芽
たもつ
土手に生い茂る草と草の間に
誰かの忘れて行った眼が
うずもれている
眼が見てきたものの記憶は
その中には残っていない
ただ、かつて前にいる人の涙を見て
自分も涙を流した気がする
もちろん、気がする、ということ自体
あり得ない、何かの勘違いなのだけれど
知らない、ということの悲しみと幸せとが
夜とともに街に人に降り積もる
草と草の間から星が見える
眼はそんな気がする
自分には感情すらあるのではないか、と思う
思う、なんてあり得ないのに
明日の朝になればこの大地のどこかから
新しい芽が出てくるだろう
街も人も知らない
どうでも良いことのように