クロアゲハ
夏緑林

鉢植えの故郷を食べちらかして
ぶらさがるようにサナギと化し
太陽が一番高くまで昇りつめた日に
みどりいろの粉をまきちらしながら無軌道を描いた

6月の水たまりと7月の林床と8月の月あかりと9月の花壇のかたわらで
きみははためきながら口ずさんでいたはずだ

真っ向吹く風を受けとめてきみの匂いを嗅ぎあてた
遅すぎる
差し出されるはずの黄金の釣瓶も鉢植えの故郷も
そこにはもうない

遅れてきてもかまわない
たどりついたきみを咎めやしない
息をととのえて
傷ついた言葉を癒してほしい
美しかった翅をぼろぼろにした
きみの言葉を癒してほしい


自由詩 クロアゲハ Copyright 夏緑林 2010-09-20 14:47:25
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