降り来る言葉 XLVII
木立 悟







右手が
左手を透り先へゆく
何かに触れる
何かを透り
さらに先へ


おおら おおら
ときく ときく
揺れに満ちる水
すきまなくすきまなく
兆しではなく 鼓動ではなく


水のくちばし
ひとつを双つに
分けてひとつの
水のくちばし
流れの横溢


泡もなく
溶けることもなく
うすいみどり
杭へ杭へ
傾くみどり


沁み震え響く
白のかたち
青のかたち
廃園の径をひたす影
雑なる雑に欠けつづける午後


洗うでもなく 剥がすでもなく
手と水と何かを
混ぜようとしている
そこに無いものが 
降りそそいでいる


夜の窓には
窓と同じもの
かたち拒むもの
とどまらぬもの
言葉照らすもの


手のひらよりも遅い蛇が
ひとつの頬を追い抜いてゆく
眠り無きものには知る由もない
暮れが
暮れ以外でできていることなど


雨の湾の内側を
外なき外の灯がともし
波に消される音や跡
着くものすべてを抱き上げている
つながるものなく 受けとめている


さみしい地図が海へ流れ出
さらにかがやき さみしくなる
線を四つ取っておく
その意味さえも
失くなる日のため


互いを知らない舟のように
両手は両手を繰りかえす
海の葉脈をなぞる波
空は花 その上の上の
空も花


水へ水へ降る
行方なきもの
互いに互いを透りながら
先へ先へゆくものへ
透る手を透る手を振りつづける




























自由詩 降り来る言葉 XLVII Copyright 木立 悟 2010-09-20 09:55:38
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