ゆるい思い出
Akari Chika
ゆるい水枠に
日常が
切り取られていく
何もかも
光をよそに
不確かさを帯びて
透けている
取り壊されてしまうと
そこに
どんな家があったか
わからなくなってしまうように
去ってしまうと
あなたが
どんな人だったか
上手く説明できなくて
巣の中で
羽根にくるまれて
休まる鳥は
ひそやかに
寝息を立てている
それは
今朝のような
冷たい朝だった
「出ていく」と
言った人が
出て行ったきり
帰らなかった
「子供だ」と
言われて
「そう言うほうが子供だ」
なんて
夢の中でも強がった
林檎の
皮を
ていねいに
むいていくように
彩りも
思い出も
ありのままを
さらせたら
蕾が
閉じていく
その様が
寝床で丸まる
自分に
見えて
涙を搾られた後は
瞳が気のせいか
緩くなって
すべてが
ぼやけてしまうんだ
雨上がりって
好きだな
鮮やかな
傘が
どこまでも
干されていて
水を
注がれて
咲いていく
花が
ここにも在る
そう思えた
冷たい朝