バッタ (ご利用は計画的に)
乾 加津也
カキコ
ゆかりの詩人の指を一本拝借して詩を書いていたのですが
その指が痒いというのでクリップの先で擦ってやると
流れる血がまた詩の風貌に滲んできたので 調子にのって
ためしにインスタント珈琲を一粒まぜて分裂と彩色を促しました
かげろうの 魚の?
電話がなりヘリウムガスの声で詩人が「ユビヲカエシテクレ」というので
お礼の指輪をくぐらせ翼(はね)をつけて窓から放してやりました
でも朝になるとわたしの指になって戻っていたので
祝杯だねとシャンパーニュ産の発泡性ワインをどっさり買いこみました
歯を磨いたり箸を持ったりする日常はいままでの指にまかせるとして
指は執筆にいそしみインドの思想哲学を読んでいました
あるときわたしの頭が悪いといって交換を求めてきましたので
十分な頭数が揃うもっぱらの店で相談しました
あ ここにもいる かげろうの魚の 群れ
店主はわたしの口腔から脊髄を覗くと古代バッタの頭と交換してくれました
首の収まりが悪いところは蟷螂のそれをつけて完成しました
指はすきあれば複眼に触ろうとするのでいままでの指で抑えるのが大変です
逆にバッタは指をしげしげと眺めて「これはないだろう」と言いました
ただムラサキカタバミの花を見つけて摘むときだけバッタは指に感心します
それ以来「トノサマ!」と聞くと体がビクンと浮かぶのです
そして揺り戻しをかければまた新たな生命(いのち)が誕生できるのです
花 花 花
いつか指が枯れる日がくるような気がします でも
変態と融合に立ち向かっている限りバッタには詩が書けるので
たとえ怪奇なハプニングでもバッタには人事のように上の空なのでした
カキコ