秋に
小川 葉
秋は
だれなのだろう
すずしげな顔をして
そのひとが
やってくると
しん、と
静かな音がする
みのりの秋と
ヒトはいうけれど
秋は
みのりなどではない
あまい果実につつまれた
その真ん中に
種
朽ち果てていく
わたしのかわりに
わたしみたいに生まれてください、と
種をおとしていく
秋は、いのり
いのりの秋
柿を食べている
食べすぎると
おしっこが近くなるよ
妻がいう
ほんとですかと
秋に問う
秋はだまったまま
何もこたえない
のこってしまった
この種は
どうしたらいいでしょう
たずねると
ますます黙ってしまった
秋に
わたしはもう
なにも聞かなかった