距離
小川 葉

 
 
死に目に会えなくて
後悔してるなら
その数分前
まだ意識があった時に
電話すればよかったのに
できなかった

ここ数年
父に電話したことがない
理由は
ただ照れくさくて
照れくさかったからだけなのだ
それなのに
照れくさいはずの
父の亡骸を
抱いて泣いた

それが
父と息子の距離だ
おたがい男である以上
その距離は
寸分も縮めない
縮めることができない

けれども
あの日
もし自分が死ぬことを
知っていたならば
父はきっと
私に電話しただろう

照れくさそうな声で
生と死の
距離を保つために
 
 


自由詩 距離 Copyright 小川 葉 2010-09-17 03:11:03
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